『劇場版PSYCHO-PASS』 -劇場鑑賞記-
アイムニコラスウォン。
……いや、みんな真似しているので、しなきゃいけないのかなと。
さて、『劇場版PSYCHO-PASS』観てきました。た。た。た。ちょっともう私は外に出るとポンコツなので取り敢えず映像だけ焼きつけて帰ってきたよという感じで細部(特に劇中引用部)曖昧ですしあまり感情移入しないように観ていたので深く正確な感想は円盤感想時に回すことにして。
あ、ちょっとその前に。
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特典ドラマCD。聴きました。『燻る面影』タイトルどおり、朱ちゃんがどうして煙草瞑想法(?)に辿り着いたか、というエピソード補完でしたありがとうございまあああっす!!
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こちらも特典ドラマCD、聴きました。霜月監視官のお話。このドラマCDの最後に初めて、あの友達の名前が出てくる。おそらく最初で最後、唯一ここだけ、というのは抑制が効いているなあと思うわけですよ。
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劇場版TVスポットCMの最終ヴァージョンに加わった狡噛さんの台詞*1がやけに青春、体育会系モノぽかったので吹き出した。のですが考えたら狡噛さん時々ベタに熱血入るひとでしたそうでした。しかしでも、青春……そうか青春なのかな*2、と思いながら公開4週目にしてようやく劇場へと足を運ぶことになったのでした。
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で、『劇場版PSYCHO-PASS』。
メモリースクープされた映像の中の数ショットの狡噛さんを見たときに私はもう“あっ、何か、楽しそうで何よりです。狡噛さんが楽しそうだったら充分ですよ〜”という気分になってしまい。(序盤も序盤だぞ)
あの数ショットの表情だけで立ち位置はわかるので、これは、狡噛さんはどうなっているのか! という謎とき感で進む映画ではなく。『可愛い子には旅をさせようとシビュラが思ったので朱ちゃん血けむり一人旅――結婚適齢期になったけどアンコールワットで王様の耳はロバの耳ごっこをしてる暇なんかない私を今だけは監視官と呼ばないで――』みたいなラテ欄占拠タイトルはどうでしょうか!!*3
そういえば、「『監視官』はやめてください」って言ったあとに、狡噛さん何らかの呼び方しましたっけ? 覚えていないのですが、たぶんその後は呼ぶシーンがなかったかとおもうんですが、TVシリーズの最終回でうっかり「朱!」まで到達しておいて、この着地点のない感じ。狡噛さん的に「朱!」って叫んじゃったときのこと覚えているがために今さらどう呼ぶべきか定まらないのか、それともぜんぜん覚えちゃーいないのか、考えようによってはこれちょっと重要なところかと思います。
TVシリーズで写り込んだ書籍のひとつに『闇の奥』がありましたが、あれはこの劇場版につながってきますよね。パンフレットによれば映画冒頭は『地獄の黙示録』のオマージュということですし。とはいえ……ゆっても狡噛さんですからねー。という。結局、それに尽きるんですけど、狡噛さんは槙島氏にはなり得ません。いい意味でも悪い意味でも。(しかしパンフレットの脚本家対談はキャラクターの性格の正解をあっさり解説しすぎじゃないか?)脚本家陣によれば“ボール投げられると追ってっちゃう猟犬なだけで、ビジョンはない”。朱ちゃんによれば、“槙島は人を支配しようとしたがったが、狡噛さんは違う”。
PSYCHO-PASSシリーズの演出は〈対話〉を印象付けるものがだんだん増えてきているかな、と感じます。劇場版の中でも、SEAUnに向かう機内での二つの対話が印象的です。(このシーンの不思議さは終盤幕引きの巧みな伏線となってもいますね) 狡噛さんもまた、自ら殺した槙島聖護の幻影をいまだに見ることがあるようです。幻影の演出がすなわち対話を象徴しているわけです。他者を想定して自分の中に異論をはかること。つまるところ内省です。私としては、多少なりともこれが可能であるうちは、狡噛さんは狡噛さんであってくれるのだろう、と思います。朱ちゃんと背中合わせに共闘することが可能な相手であってくれる、と。
(槙島氏の場合、新編集版のプロローグが象徴的ですが、『人ラヴ!』とでも言いたげにあくまで神の視座に立とうとしています)
(ただ、槙島氏も想定外の人間を探してはいたんですよね。朱ちゃんは槙島をそこまでは理解しようと思っていないかもしれない。狡噛さんにはわかっているかもしれない*4)
国家は人間の似姿をとります。常守朱の正義は異論をはかった上での合意形成です。
人も国家も、必要に応じて決断を下していかなければなりませんが、独善・独裁の傾向に流れないためには、対話して得た異論とその影響を自分の中に内在化*5させていくよりほかにありません。いみじくも、いつか征陸さんが言ったように、常守朱の特性はあるがままに現実のすべてを受け止め、許すことにある。その柔軟さが彼女のサイコパスをクリアに保たせていると。*6 朱ちゃんは監視官着任早々の任務ですでに執行対象との〈対話〉を試み、やり遂げていました。
この命題はぐるぐると入れ替えが可能になっており、今回の映画における朱ちゃんのシビュラへの要求は、〈自ら選ぶというプロセスをなしにしては、人々はシステムを内在化できない。〉というものでした。
異なるものを取り込むことで自己を最良化していく、というパターン自体はシビュラの思想でもあるので(目的はだいぶ違うが*7)、こうした論理性を共通言語にしてシビュラと朱ちゃんの共存関係は成り立っているのかもしれません。
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霜月監視官。
2期最終回感想時に記した件についてですが、劇場版の霜月監視官は「客観的な描かれ方」*8をされているのみですので、不安は杞憂でした。なるほどでした。これなら2期は“霜月監視官の過去には実はこんな経緯が”という位置付けのものとして受け取れるので、むしろ2期が美味しく感じられます。
宜野座執行官。
宜野座さんなっかなかいいとこ攫っていけたじゃないですか?(2期で空気だったのでまたその程度なのかなって心配しましたけど)ポニテ似合ってるし。ポニテはたぶん脱メガネもそろそろ馴染んでしまった頃合いに執行官的にどっか崩したいけど着こなし崩すと誰かの真似になっちゃうしって宜野座さんちょっと考えてポニテ化しかなかったんでしょうね?! 始めから執行官だったら逆にそういうのは気にしないんでしょうけれど。でもポニテ似合っていますよ! 宜野座さんと朱ちゃんと狡噛さん、の三角形(三角関係というと意味が偏ってしまいますので)は最終的に私好みのものになってきましたねえ。こういう矢印とバランスの力関係がかなり好きですよ私は。これが恋愛がらみだったら宜野座さんとくっつくパターン押しです。*9 ポニテも下手な嘘も似合っていました。
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狡噛さんを演じる声優の関さんがエンディング後のシーンを深読みして怯える意味深なツイートをしていらっしゃいましたが、(どう深読みしたかは書かれていませんが、なるほど)確かにそういう解釈でも、TVシリーズの槙島の処理に対比してバランスがいいあれになるかな、と思いました。むしろそのあっけなさがいい感じのあれじゃないですか! でもまあ。ねえ。もうこんなに金になるんじゃ製作陣、メインキャラをわざわざアレするつもりねーだろ(ごめん身も蓋もない)とも思わされる映画だったですし……。
エンディング後のシーンを穏当に深読みするとすれば、革命権というようなものを象徴させる絵面と音なのかもしれないな、と。シリーズにおいてドミネーターと実銃との関係性はそういうもの――最終的にそういうものになりましたよね。
さて。
以前のエントリで、劇場版は朱ちゃんと狡噛さんの〈信念〉と〈信念〉がぶつかりあう話になるはずで、という予想をしましたが、答えはどうだったでしょうか。確かにそうだったけれども二人の場合、“ぶつかりあう”の意味が、対立ではなくて競演なのだな。それぞれの場所で。だけどやはり、それぞれの場所で、というのは別離をあらわす。対立ではないけれど、乖離していくさだめではある。ノイタミナ枠で流れるアプリゲームのCMで1期1話の場面が使われていて、あの頃の狡噛さんの、烙印を押されて飼われている状態の無表情さ、そこからのギャップを改めて確認してしまうと、現在の狡噛さんは眩しいほどに人間してて何よりです。何よりです、と言って観終えるよりほかにどうすれば……? どうすればいいですか……?*10 でもまあでも、やってることは猟犬時代と変わらず、“ハン議長はぜったい怪しいよ何か裏があるよ”、というそれは勘と嗅覚による確信なのであり……。……ああ、ああそうか、だから『監視官』と呼ぶのが今でも(今では)一番しっくりくる、ということなのかもしれないな。《常守監視官》の存在が狡噛さんの中にありつづけるなら、距離があってもその結びつきに終わりはないのだ。
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・「劇場版 サイコパス」週末興行4位スタート 興行収入早くも2.4億円
・「劇場版 サイコパス」興収7.7億円突破 花澤香菜、東京・大阪で感謝の舞台挨拶
大ヒットと言えますよね。おめでとうございます。
この感想を書き終えるまでほかの方の感想を読むのを控えていたのでこれから読んで回りますね……。
*1:「ここを切り抜けたら、また俺を捕まえに来い」
*2:時同じくしてSFマガジン系作家さんのレビューのタイトルが目に入ったせいもある。
*3:アンコール・ワット云々は『花様年華』ネタです。関係ありません。すみません。
*4:「槙島は〜支配〜」のところの狡噛さんの切り返しは相変わらず従順に聞こえるけれど取りようによっては含みを感じるんですよ。
*5:暴論もワクチンのように取り込んで持っておくといいです。
*6:ものごとを検討して了解するプロセスが、立ち位置の変動、激変を抑え込む。自分を見失わせないように働く。ということもあるのかな、と。
*7:シビュラは最良化されることによってより精度の高い効率的な異分子排除機構となるわけですから。
*8:とても的確な表現ですので霜月さんを演じる声優の佐倉さんのパンフコメントから引用させていただきます。
*9:『PSYCHO-PASS』じゃなかったらの話ですよ念の為。
*10:あの頃の一係に戻れるわけでもあるまいし。